『蒸発』の概要
| 原題 | Die sich in Luft auflösen |
| 製作年 | 2024 |
| 製作国 | ドイツ、日本 |
| 監督 | アンドレアス・ハートマン、森あらた |
| 時間 | 86分 |
| 配給 | アギィ |
蒸発当事者、夜逃げ屋、失踪者の家族、支援者など蒸発に関するさまざまな立場の方たちの側面から日本の「蒸発」という現象に迫るドキュメンタリー。
日独の気鋭の監督陣による作品であり、AIを駆使した映像により当事者や夜逃げ屋の方の顔を変えつつ表情は伝える手法による画期的な映像になっている。
『蒸発』の予告編
この映画で知ることができること
- 日本では毎年約8万人が失踪し、そのうち数千人は完全に姿を消してしまう
- 蒸発者のいくつかの事例
- 夜逃げ屋の仕事の実態
- 失踪者の家族のひとつの想い
- ディープフェイクの有用な使い方
この映画の背景
日本特有の社会現象である「蒸発」として日本では毎年約8万人が失踪し、多くはやがて帰ってくるのだがそのうち数千人は完全に姿を消してしまうという。その理由としては人間関係のトラブルや借金苦、ヤクザからの脅迫などさまざまである。
夜逃げに関して、一昔前は女性からの依頼が多かったがいまは男女比が半々になっている。理由はパートナーのDVが大半を占めるという。
映画の夜逃げ屋に関しては年間2000件ほどの相談が寄せられ、そこから内容を鑑みて150件〜200件ほどを請け負っている。そして蒸発体験者がその業務に従事するようになるケースもある。
AIの発達により、被写体の顔や発声(名前や地名)を変えるという手法が使える様になり、プライバシーを守りつつも自然に表情や想いを伝えることが可能になっている。
『蒸発』の感想
86分とややコンパクトな構成ながらとても見ごたえある作品であった。
単語だけは聞いたことがある「蒸発」という事象をここまで臨場感を持って描けることに驚かされる。冒頭いきなり蒸発者待ちの夜逃げ屋さんの車中に同乗して撮影しているという「それアリなの!?」という状況で面食らうし、夜逃げ屋はなんとなく男性なのかと思っていたが女性であり、そして「パートナーの女性が風呂に入った隙に抜け出してきた」という男性依頼者を車で保護し、そういうケースもあるのかとこれまたハッとした。いろんな思い込みがあったが、いまは女性からDVを受ける男性もおり、夜逃げ屋のホームページに寄せられる依頼は男女比が半々になっているそうだ。
この他にも、生活がまともになってきた蒸発者が37年ぶりに実家を尋ねるパート、会社の寮から疾走した息子を想うシングルマザーと調査する探偵パート、ブラックすぎる企業から逃げ出して田舎のラブホテルで住み込みでひっそりと働くカップルパート、家業が傾き家族にだまって蒸発した父親パート、夜逃げ屋さんパートとさまざまな側面から蒸発の実態に迫っていく。
感じるのは、蒸発という行為が当事者からすると苦しさもありつつ前向きなアクションなのだということである。蒸発者からは「どん底から、ようやく明かりが見えるところまで戻ってこれた」といった旨のコメントも出ており、住む家を考えたり、家族と再開することを考えたり、それぞれの形で希望を感じていることもうかがえた。ただ失踪者の家族側から見れば、やはり心苦しさも感じる。
そしてそんな心の機微を感じさせることに一役買っているのがディープフェイクである。「プライバシー保護」と「当事者の表情を伝えること」を両立させており、蒸発という難しい題材のドキュメンタリー映画をより臨場感をもって描く手段となっていた。
またこの難しい題材の取材対象との関係性構築にも時間をかけたとのことであり、丹念に作られた作品だということを大いに感じられたのであった。

没入感があるドキュメンタリー映画だったゾ!
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